フォーレンダム

 幸い今日も快晴。
アムスに来たらやっぱり、フォーレンダムへ行かなければ。
朝食を終えると、すぐに中央駅に出掛けてフォーレンダム行きのバスに飛び乗った。
フォーレンダムは昨日行ったマルケンの対岸にある。
エダム行きのバスに半時間ほど揺られ、僕にとって二度目、彼女にとっては初めての地に着いた。 このままバスに乗っていれば、フォーレンダムの先、エダムまで行くことも出来る。 エダムはチーズの産地で、エダムチーズは有名らしいが、チーズにゃ興味は無い。

 前回はこの地で散々な目に遭ってるが、今回は快晴。
雨の心配も無く、ゆっくりと町中を散策できそうだ。 勿論、いつもの様に地図は持たず、気の向くままに町中や郊外をのんびりと歩き回る。
 町の外れにやって来たときだ、前に来た時は目にしなかった、民族衣装を着た人達を何人か目にした。 マルケンの時と同じように、やっぱり老人が多いようだ。
民族衣装を見ていて、この衣装に付いているチロルラインテープとスカート生地を買いたいと嫁さんが言い出した。 風車柄のテープを買って、母達に前掛けを作って送りたいと言うのだ。 早速、通りがかりの人達から情報を仕入れて、これらを購入出来る店に出掛けてみた。 僕は裁縫に興味はないが、カラフルなチロルラインテープを見ているのは結構楽しい。

 買い物を終え、また町中を歩き回っていると、前回、大変お世話になった教会の前を通りかかった。 いやあ、あの時はどうも・・・・て、それもいいが、教会を出るときに残していった置き手紙の内容を考えると、このままお邪魔しない方がいいような気がして来た。 とは言う物の、この前は教会の中に入る事は無かった事を考えると、あの教会の中がどんな風になっているのか、ぜひ見てみたい誘惑に駆られる。
 結局、二人でそっと教会に入ってみると中には誰もいない。
ずらりと並ぶ礼拝用の椅子の最前列まで歩いて行き、二人で静かに椅子に腰を下ろした。
そっと手を合わせ、数年前、この教会の神父様に助けられた事に対するお礼を心の中で呟いた。 カトリック幼稚園を卒園以来、教会でちゃんとお祈りをするなんて、そうそう、スイスはツェルマットの教会に入り込んで、二人だけの結婚式をして以来だね。 
 教会を出て、あの時雨に遭った場所に行ってみることにした。
あそこには何基かの風車が荒堀の運河に沿ってあったから、嫁さんに風車をみせられると思ったから。 無事、雨にも遭わず風車を堪能して、再び町中をぶらぶらしながらバス停へと向かう。

 アムスに帰って、まずは夕食の買い込みにスーパーへ出掛け、その後、映画館で007ジェームスボンドの映画を見た。 そこまでは良かったが、ホテルに帰って飲んだビールが悪かった。 空き腹に飲んだものだから、途端に酔いが回って来たではないか。
気分が悪くなって、結局、僕は夕食も食べずにベッドイン。


二日酔い
 
 僕の親父は酒が強い。
足が不自由だってのに、仕事帰りに仕事仲間や部下と一杯やって、ぐでんぐでんになってても、片足で自転車のペダルを踏んで家に帰ってくる。 宮大工の親父をもつ母はこれと正反対でめっぽう酒に弱い。 ビールならコップに半分でもうだめだ。
どうも、僕は母の血をひいたらしくて酒は弱い。
 その酒に弱い僕が昨日、空き腹に缶ビールを一缶、一気に飲んだものだから途端に気分が悪くなり、一夜明けた今日も状態は変わりない。 頭がガンガン痛み吐き気がする。
それでも、朝食を食べる食欲はあるので、例のロープに両手をかけながら下に降りてレストランの椅子につく。 何とか殆どの朝食を食べ終わり、最後にゆで卵を食べた直後、急に吐き気がして慌てて部屋に戻り、食べたものを一気に吐いてしまった。 こんな悪酔いは初めての経験だ。

 初めて酒に酔ったのは(と言うより、それまで酒など殆ど飲んだことが無かった)僕が高校三年の時だった。 年末に、悪友ジャンと酒の粕を焼いて、これに砂糖を付けて食べていたらお互い、顔が真っ赤になって頭がくらついて来だした。 足下も少し定まらなくなって・・・・ジャンが帰ると言うので、一人じゃ危ないからと僕も一緒について行った(送っていった、と言う事にしておこう。)。 彼の家に着くと、彼の姉貴が出てきて、僕らの顔を見るなり「どないしたん?」。 結局、帰りはジャンの姉貴が車で送ってくれた。
 その次はジェルジンスキー号の中で、ウオッカを一気飲みして気を失った。 最後はモスクワのウクライナホテルでビールを飲んで酔った時。 そして、結婚式と新婚旅行を兼ねた1ヶ月の欧州旅行の最後、フランスのシャルトルからパリまで歩いた時の出来事。
 小さな村にさしかかった日、その日は丁度パリ祭の日で、それまでの貧乏旅行から偶にはまともな食事をしようと夕食にパブのような店に入った。 パリ祭のための飾り付けがされ、客達が陽気に騒いでる中で久々のまともな食事。 食事の最中、ウエイトレスが僕らにワインを持ってきてくれた。 フランス語は分からなかったが、どうやら一緒に祝ってくれと言う事らしい。
 大喜びしながら二人でワインを頂いたが、僕が手洗に行って帰り際、歩いていると頭がくらくらしてきた。 席に戻ったがとても座ってられない状況・・・・・様子がおかしいのを察知したのか、店の主人らしき恰幅のあるおじさんがやってきて、何か話しかけてくるが言ってる意味が分からない。 嫁さんが身振り手振りで、酒に酔ったらしいと言う事を伝えると、その主人、薬と冷たい水を持ってきてくれた。
 店の客達が僕を支えてくれて、ベンチ席に寝かしてくれる。
そして又、何事もなかったようにワイワイがやがやが始まる。 頭がもうろうとしている中で、何かしら遠くから鼓笛隊のような音が近づいてくる。 どうやらパレードのようだけれど、その音が店の前を通過して遠ざかって行く頃、僕の意識は段々とハッキリして、気分も少しは回復してきた。 ベンチ席から起きあがると、主人が暖かいミルクを持ってきてくれた。 

 結局、この日僕は寝たきりで外出出来ず。
宿の旦那や女将が時々僕たちの部屋に顔を出してくれる。 昼食も大変だろうと、部屋まで差し入れてくれる。 せめて一日、雨だったのが慰めか・・・・だって快晴だったら、這ってでも街中へ出てったろうから。


風 車
  
 昨日の雨も二日酔いと共に去り、曇り空とは言え気持ちの良い目覚め。
窓を開けると、教会の鐘の音と共にビューと強風が僕らの部屋に吹き込んできた。
今日はロンドンへ戻る日だ。 朝出発のつもりでいたが、昨日、この部屋で一日を無駄に過ごしたので、出発を夜に変更する事にした。
 朝食を採った後、女将さんに風車が見えるオススメの場所は無いかって聞くとKoog aan de zaanを勧めてくれた。 中央駅から直通で行けるというので、ここへ行ってみることにした。 荷物を持ってチェックアウトを終わり、宿を出ようとすると「良かったら荷物を置いて行きなさい。 列車までは時間が一杯あるから、帰ってから出発までここで休んで行くといい。」って言ってくれる。 お言葉に甘えることにした。
 駅に行ってチケットを買い、ホームを聞いてからKoog aan de zaan行きの電車が入るホームへ向かう。 電車はもう入っていた。 約25分(20Km)の道のり。
 
 目当ての風車は町中に3碁、町を抜けた所で、川沿いに6碁あった。
運河沿いに歩きながら、風車や放牧されている牛や羊を見て回る。 小さな道の両側には黄色い、月見草のような花が咲いている。
 フォーレンダムで見たようなのもあるし、違った形のものも幾つかある。 風車と言えば、あの塔の上の方で羽根の向きを変えるものだけと思っていたら、ここにある風車の中には塔毎向きを変えるものもあるようだ。 実際に羽根が動いている物が3機。 中では実際に粉を挽いている。 それにしても風が強いから、運河の水面が波立ち風車の羽根も勢いよく回っている。
 
 季節はずれと曇天と言うこともあってか、観光客は殆どいない。
見学させて貰っていたある風車で、その風車の管理人か持ち主か? 黒ずくめの服に黒い帽子をかぶったおじさんが僕らに話しかけてきた。 風車の中を見せてくれると言う。
いろいろ説明してくれて、デッキのような所に出ると、一本の太いロープが羽根の辺りから垂れ下がっていて、手摺りに結わえてある。                   

 これは羽根の回転を止めるブレーキロープだと言いながら、そのロープを僕の方に持ってきた。 これを思いっきり引いてごらんと言う。 強風の中、思いっきり、体重もかけて引っ張ると、グルグル回っている羽根が止まろうとするが、風の力の方が強いらしい。
おじさんも一緒に二人がかりで精一杯引っ張ると、羽根の回転が無事停止した。
 羽根をロックして、おじさんが僕に握手を求めてくる。
「よくやった。 今日はもう止めておこう、風が強過ぎるからね。」

 アムスに帰った僕らは、宿に一旦戻って列車の時間までレストランでお茶を飲みながらゆっくり過ごした。 宿を出るとき、女将が牛乳パックを嫁さんに渡してくれる。
「子供が出来たら、又おいでなさいよ。」その言葉に送られて僕らは中央駅に向かった。

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