| プロローグ
        1973年、高校最後の夏休みを欧州縦断一人旅で締めくくった僕にとって、卒業後の進路はもう決まったも同然だった。 クラスメイト達が大学進学、就職と慌ただしく動き出した頃、担任から卒業後の進路について聞かれた・・・・・ 
       
       「卒業したらどないするつもりや?」 
       「写真専門学校か観光専門学校も考えたけど、やっぱりヨーロッパへ行きたい。」 
       「ヨーロッパへ行ってなにするつもりや?」 
       「わからん・・・・わからんけど、音楽でもやろか。」 
       「人が真面目に聞いとんのに、真面目に答えんかい。」 
       
      こんな会話が職員室で何度か行われたが、結局、卒業と同時にヨーロッパへ行くと言う、僕の意志に変わりはなかった。 
       この時点で、ヨーロッパの何処って意識は無かった。 
      音楽でもやろか? ってのは、僕の悪友がビートルズ狂いで、暇があったら彼らの曲を聞かされていたので、ほんじゃまあ、この悪友の意志を継いで音楽でもやりましょかって程度の軽い考え。 要は、自分でも何をしたいのか明確な意志の無いまま、とにかくヨーロッパへ行きたいと言うことで、何をやりたいのかなんて事は正直、この時期の僕にはどうでもよかったと言える。 
        
       そんな折り、高校最後の文化祭で悪友達と何かやろうと言う事になった。 
      「ビートルズにサイモンとガーファンクルやろ。」 と言う悪友達・・・・そうかそうか、これは面白い。 
      だいたい、エレキギターなんて不良の3点セットの一つと言われていた時代だ、これは絶対、校長の反対食らうのは間違いない。 おもろいやないか、俺は中学時代にドラムを囓ってるからドラムやったる。 
       って事で、早速、校長に進言するもフォークはいいが、GSはダメと二つ返事で断られた。 
      断られてはいはい言ってたのでは男が廃る。 文化祭前日の夜、楽器を内緒で体育館に運び込み、一方、僕と悪友(ジャン)で校長の家に直談判に出掛ける。 深夜まで交渉が続いた末、夏の欧州旅行同様、校長からやってよしの了解を得た。 
       僕以外の連中は筋金入りのビートルズやS&Gファンでギター、歌(勿、英語で。)全く問題ない。 
      僕はと言えば、ドラム敲くのは中学1年の時以来で、曲もS&Gしか知らない。 ドラムを入れた合わせ練習は1回やっただけでぶっつけ本番。  それでも、僕らの演奏は大受けで、演奏が終わるとテープにトイレットペーパーの雨嵐。 大成功だった。 
       この文化祭が僕の渡欧に影響しなかった筈がない。 
      ビートルズにゃ興味は無いが、まあ、悪友がビートルズ、ビートルズって言う、そのビートルズを生んだ国に住んでみるのも面白いかもしんない。 
       
       翌年2月、高校を無事卒業した僕らは皆、それぞれの道を目指して散らばって行った。 
      僕はと言うと、高校時代と何ら変わりなく、朝は牛乳、夜は酒屋の配達のバイトを続けながら、昼間は自転車で淡路島を走り回ったり、気が向いたら京都や奈良へ日帰り旅行をしたりの生活。 
       勿論、ヨーロッパへ行くのを諦めた訳ではなく、いやそれどころか、すでにシベリア経由アムステルダムまでのチケットは予約済みだった。 普通考えれば、そうと決まったらせっせとバイトして資金調達を図るのが筋だけど、僕に必要なお金はロンドンまでの片道切符と、現地で1ヶ月も暮らせる予算があれば十分。 
       もともと、向こうで親の援助にたよる気は無かったから、幾らお金があっても同じ事だ。 
      結局、そうかんがえれば現地でバイトしてお金を稼ぎ、自活していく以外、長期間の滞英など出来るはずも無かった。 皆が大学へ行ってる期間、そう4年間、ロンドンで勉強するから、大学へ行かせたと思って学費、生活費を出して欲しいって親に言う手もあるが、不自由な身体で僕を育ててくれた両親、まして弟もいる事を考えると、その両親に学費、まして生活費まで出して欲しいとは言えなかった。 それに、そんな調子良く苦労も無しにいったんじゃあ、何も面白い事がない。 
       
       若さの特権・・・・それはやり直しが効く事。 
      やり直しが出来るって事は、ある程度無茶をやっても何とでも軌道修正が出来るってこった。 
      とにかく、自分で何をやりたいかって事はまだ見えてこないが、そんな時は今自分がやりたい事を即実行するってのに限る。 それをやってる内にきっと何かが見えてくる筈だ。 
       それが周りから見て幾ら遊びの様に見えても、つまらない無意味な事のように見えても、周囲にただ流されてみんなが進むように就職だか進学だか(もっとも、僕の成績じゃあ大学、短大なんて裏口でもダメだったろうけど。)してしまうのでは、見えるものも見えなくなってしまう。  
       
      さあ、もう遠い昔の僕の小さな冒険旅行に出発してみるか。 
       
       
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